ヴィジュネル暗号なお話 その1 | もっとコンピュータが好きになるblog

ヴィジュネル暗号なお話 その1

ーレライ,おもしろそうですね.久々に映画館まで行って見たいなぁと思う映画が来ましたよ.役所広司さん,やっぱ格好いいなぁ.ちなみに役所さんは@niftyのウィルスの恐怖展というちょっと変わった趣向の企画のホスト役もやってました.世にも奇妙な物語風のドラマ仕立てでネット上のウィルス騒動や詐欺に関して紹介していました.

- ローレライ



ようやくヴィジュネル暗号まできました.予定では四回の連載ものとして紹介したいと考えています.まず第一回目の今回は,ヴィジュネル暗号が生まれた背景についてふれたいと思います.

今までいくつかの暗号について紹介してきました.しかし,そのいずれも,解読しようと思えば,さほど苦労しなくても解読出来てしまう程度の暗号でした.暗号というものは,安全を確保すると同時に,安全でもないのに安全だと思いこんでしまうという大きな危険性も持っています(現在の暗号の世界でも安全と思いこむ危険性については問われています).

これまでの暗号は安全を確保するという意味では15世紀ごろまでは全く使いものにならないものと化していて,むしろ危険度の方が大きかったぐらいでした.そして時代はすすみ,もっと強力な暗号が徐々に求められてゆくことになります.



15世紀になり,ようやく今までの転字,換字暗号よりも強力な暗号が登場します.それがレオン・バッティスタ・アルベルティという人が作成した暗号です.これはこれから説明するヴィジュネル暗号の考え方の基礎を作った暗号です.ちなみにこのアルベルティさん,シーザー暗号なお話の回でも出てきていまして,暗号円盤というものを作っています.こちらも合わせてみるとより面白いかと思います.

それから,上の写真はアルベルティの像です.


では,早速そのアルベルティの暗号がどのようなものであったか見ていきましょう.今までの換字式の暗号は,平文(暗号前の文)の一文字に対して,対になる文字を当てたものでした.


変換表
平:ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ
暗:ZCNKLXHIVBAQOEFTSRMPWGDUJY


「THIS IS A PEN」→「PIVM VM Z TLE」


これに対してアルベルティの暗号の平文のアルファベットに対して,暗号の為のアルファベットを二つ用意します.そして,交互に暗号用のアルファベットを利用してゆきます.最初の変換は暗号アルファベット1を使い,次は暗号アルファベット2を使うといった感じになります.転字暗号なお話の回で出たレールフェンス暗号と丁度組み合わせた感じなもとと考えても良いかもしれません.



変換表
平 :ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ
暗1:ZCNKLXHIVBAQOEFTSRMPWGDUJY
暗2:YZCNKLXHIVBAQOEFTSRMPWGDUJ


「THIS IS A PEN」→「PHVR VR Z FLO」


このアルベルティの暗号の暗号の強みは同じアルファベットであっても二通りの変換が成されることにあります.例えば上の「THIS IS A PEN」が「PHVR VR Z FLO」と暗号化されました.今までの換字暗号では,再び文章中に「THIS IS A PEN」と出てきたら,全く同じ暗号文が生まれてきてしまいますが,ここでは「MIIM IM Y TKE」と暗号化されて出てくるかもしれないという事です.これで,THEなどの出現頻度の高い文字があっても今までのように簡単に解く事が難しくなりました.



アルベルティは,今までにはなかった新しい暗号の扉を開いたのですが,深く追求する事なく,そのままにしてしまいました.アルベルティの考え方を継いでいったのがヨハネス・トリテミウス,ジョヴァンニ・ポルタ,そしてブレーズ・ド・ヴィジュネルの三人です.

- 暗号研究者の一覧

ヴィジュネルは,アルベルティ,トリテミウス,ポルタの考え方を吟味してゆき,16世紀についに極めて強力な暗号を完成させる事になります.それがヴィジュネル暗号です.これが,史上「解読不能」と言わしめた4つの暗号の最初の一つ目になります.

次回は,実際にヴィジュネル暗号の仕組みを見てゆきます.土曜日に公開を予定しています.